古畑任三郎というサスペンスドラマがあります。
出演田村正和。
サスペンスはミステリーと違って
「最初から犯人がわかってる」。
毎週のように豪華俳優陣がゲスト出演し、
犯人となって古畑に仕とめられます。
~以下ざっくりネタバレ注意~
誰をどのような手段で殺したのか、
そしてそれを刑事はどうやって暴くのか
それがサスペンスの面白い所だと思うんですけど、
シリーズの中で僕が一番好きなお話は、
ゲスト俳優(犯人)が津川雅彦さんの回です。
これ、数あるストーリーの中で唯一
「誰も死なない」お話なんです。
もっというと、
「起きてしまった殺人事件の処理ではなく、
そもそも殺人を未然に防ぐ刑事の理想」
(古畑談)に成功するお話なんです。
~
人気作家の安齋(津川さん)が、小学校の同級
生だった古畑(田村さん)を山荘に招待する。
積もる話を楽しんだ後、
安齋は古畑に「とある現場」を見せる。
何十歳も年下の妻(三浦理恵子さん)と、
安齋のマネージャー(細川茂樹さん)の不倫現場。
結婚当初から「財産目当てだ」と揶揄された
がゆえ、これがバレるとどうせ
「だから言っただろ」と非難されるのは明白。
老い先短い安齋はまるでこの世の終わりかのように悲しむ。
~
こちらとしては「犯人は誰をどのような方
法で殺すのか」って所に着目している。
なのでこの不倫現場を見た時点で僕は、
①妻とマネージャーどちらが殺されるのか
②あるいは両方殺害されるのか
③どのような方法で殺害されるのか
ってのをずっとハラハラしながら見てる。
結果?大ハズレ。
両方死なない。
安齋は自殺しようとしてた。
ただ、それだけじゃ収まらない。
そこで「憎き二人」に殺されたかのような
トリックを仕組む。
古畑が山荘に招待されたのは、
安齋が作ったそんなストーリーの
第一発見者として二人を逮捕してほしい目的
からだった。
そして古畑はそれに気づく。
~
あたかも二人に殺害されたかのように見せる
トリックの決行に入るその直前、
安齋は古畑に止められます。
奥さんに「予想通り」浮気をされてしまって
世間的に何もかも失うと嘆く安斎。
いつもは犯人と冷静に接する古畑だけど、
この時ばかりは珍しく感情的に訴える。
安斎は言います。
「すべてを失うことは耐えられない。」
「俺たちはいくつだと思っているんだ。」
「振り出しには戻れない」と。
これ、すごくわかる。
ミュージシャンとしてデビューするなら
二十歳前後の若い時。
25歳を越えるとレコード会社から
「お声がかからない」という定説を聞いた事
もある。
※僕は二十歳の頃、両親に対して
「25までは好きにさせてくれ」という条件で
上京した背景もある。
それまでも音楽に全てを注ぎ、
他にあるかもしれない「人としての幸せを
これから手に入れることなく、
ただ年老いる事に耐えられない。
後悔はしてないけど振り出しには戻れない。
そんな風に思っていた僕がもはや安齋自身。
そんな安齋に古畑は言います。
「とんでもない。まだ始まったばかりです。」
「いくらでもやり直せます。」
「例え、明日死ぬとしてもやり直しちゃいけ
ないと誰が決めたんですか?」
~
人生というものを考える時、
えてして損得勘定とか世間体とか、
少なからず理論的に考えたくなる時がある。
そうじゃなくて、
論拠となる裏付けなんか一々示さなくったって、
例え、明日死ぬとしてもやり直しちゃいけな
いと誰が決めたんですか?
っていう感情的なメッセージ。
それだけでね、十分伝わった。
この、「それでもなお、今できる事があるは
ずなんだ」って信じること。
それを僕は「前を向くこと」というんだと思うんです。
それを「希望」と呼ぶんだと思うんです。
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