中学生の時、有名な小説の冒頭を覚えるテストがあった。
走れメロスだと「メロスは激怒した」
坊ちゃんだと「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている」という具合だ。
色んな冒頭を丸暗記した中で、最も印象に残っている一節がある。
その一節はテストには出なかったし、そもそも冒頭ですらない。
「恥の多い生涯を送ってきました。」
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人間失格は太宰治の遺書とされている。
では太宰は何をもって「恥が多い」と感じたのだろうか。
何をもって「人間失格」と綴ったのだろうか。
幼い頃から道化を演じて自分の殻に閉じこもり、誰のことも信じられずにいた葉蔵(太宰)。
子供の頃から父親が相当厳しかったらしい。
道化、つまり「いいこ」を演じてでも父親に愛されたかったのではないか。
愛されるための振る舞いのみを考え、自分の本音は押し殺し、そんな「いいこ」に慣れてしまった葉蔵。
そんな自分に自信なんて持てないから、大人になっても他人の事が信じられない。
子供の頃から「閉じ込めた精神」。
感情に行き場は無く、酒や女、はてはクスリに逃げた。
そうして廃人になる。
使用人に促されるまま入った病院の部屋には鉄格子があった。
自力では出られない。
精神だけにあらず、遂に肉体も閉じ込められてしまった。
ここで綴られる。
「人間、失格だ。。」
ただ愛されたくて、でも上手くいかなくて。
それが「恥が多い」と感じた所ではないか。
〜
文学において作者が最も想いを託せるのは最初と最後と言われている。
最初は、「恥の多い生涯を送ってきました」
そして最後は、葉蔵をよく知る女性のセリフで終わる。
「あの子はね、神様みたいないい子でした」
葉蔵、つまり太宰は自分を認める事が出来なかった。
けれど、「人間失格」という「遺書」の最後の最後で、誰でもいいから「ありのままの自分を受け入れて欲しかった」という願いが溢れたんじゃないか。
あるいはその知人女性、
葉蔵がひた隠しにしてた傷つきやすく臆病な性質まで全て見抜いてて、でもそれを知ってる上で「神様みたいないい子」と本当に思ってたんじゃないか。
そしてそれを太宰は最期まで望んだんじゃないか。
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太宰は、精神も肉体も閉じこもった状態を「人間失格である」と説いた。
世の中には、言いたい事を押し殺し、他人に受け入れて貰うために「いいひと」を演じ、そうして自己を見失う人が結構いると思う。
ならば、人間を失格にならないために必要なのは「愛して欲しい」と恥ずかしげも無く相手に伝える事から始まるんじゃないか。
なんて事を思う。
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